record of relocated
2021.6.20
私たちは店舗を構える古民家を探して、塩尻市の旧中山道沿いにひっそりと佇む古民家に足を踏み入れました。3つの候補がある中で、そこは一番古びていて小さい建物だったので、第一印象は控えめでした。
しかし、築130年を超えるその本造りの建物が語る歴史の深さに、建築家や古民家愛好家たちは次々と驚嘆の息を漏らします。「こんな家には滅多に出会えない」と彼らが感動を口にする度、私たちの心は少しずつ動かされていきました。力強く時を刻んだ梁の存在感、まるで秘密の通路のような魅惑的な箱階段。古民家をじっくりと観察するうちに、それらの美しさに心を奪われ、知らず知らずのうちにこの古民家の不思議な魅力に深く魅了されていきました。まるで古い木々が囁くような、そんな物語がこの家には詰まっているようでした。
2021.12
冬の厳しい寒さが身に染みる12月の初旬、どの古民家にするかまだ迷っていた私たちは、安曇野にある別の古民家を訪れました。その日の衝撃は今でも鮮明に覚えています。目の前に広がる澄み切った空気と、遥か彼方にそびえ立つ北アルプスの壮大な景色。私たちは、安曇野の地に完全に心を奪われました。
その時、塩尻にあるあの古民家を、この美しい安曇野の大自然の中に移築したい、そんな想いが芽生えました。まるで、安曇野の自然が私たちにその決意を促しているかのように感じられたのです。こうして、築130年以上の古民家を移築するという計画が始まりました。
2022.2.11
計画が始まり3ヶ月、計画は順調に進み、早くも解体の日が訪れました。古民家の梁や木材が一つずつ解体されていく姿を間近に見て、私たちの計画が現実のものになるのを実感しました。
梁や木材は一本一本丁寧に扱われ、それらに深い愛着が湧いてきます。各々の木材が長い年月を経て刻んできた歴史や物語を感じながら、新しい地で再び命を吹き込む準備を進めました。
2022.3.20
安曇野に移築するにあたり、その豊かな自然からの恵みを最大限に生かすため、井戸を掘りました。深く掘った井戸からは、穂高連峰と槍ヶ岳のあわさった天然水が湧き出ます。この水で炊いたご飯は、その美味しさとふっくらとした食感が格別です。また、鰻がその清らかさの中でのびのびと泳ぐのにも理想的な水です。
安曇野の自然が育んだこの水が、私たちの料理に特別な味わいを加え、それを一層引き立ててくれることでしょう。
2022.4.5
無事に解体と井戸工事が終わり、ついに、移築工事が始まりました。新たな地に根を下ろす地鎮祭の祈りを捧げ、いよいよ夢が現実のものとなる時です。わくわくするような期待と同時に、計画通りに進むかどうかという不安にも襲われました。しかし、一つ一つの工程が進むにつれ、どんどん出来上がっていく様子を目の当たりにし、その不安も徐々に期待へと変わっていきました。
2022.9.6
春から夏になり、秋が訪れた頃。着工から5ヶ月余りの時を経て、移築作業がついに、完了しました。
この素晴らしい古民家が、安曇野の美しい土地に堂々と立つ姿は、まさに感動的でした。長い月日をかけて丁寧に移築されたこの建物は、新たな地で新しい歴史を紡ぎ始めます。安曇野の豊かな自然に囲まれ、古き良き時代の風格を持つこの古民家は、これから多くの人々に愛され、語り継がれていくことでしょう。
2022.9.17
移築が完了してからは、お店の開店の準備に精を出しました。準備は予想以上にバタバタと忙しい日々でしたが、その全てが終わりお客様を迎える準備が整った瞬間、これから始まる新たな章に胸が高鳴りました。そして、予定を少し過ぎた頃、ついに「炭火焼き 旦」と「dan café」を開店しました。
これからここで、私たちは皆様に幸せをお届けするための時間を紡いでいくことになります。私たちの手によって再生されたこの場所が、訪れるすべての人にとって、忘れられない思い出となるように、心を込めた料理をお届けし続けていきます。
image video
移築前に、建築会社の方に作成いただいた3DCADで製作されたイメージムービーです。
是非ご覧ください。
信州松本平〜塩尻の平野部に分布する民家の様式「本棟造り」。
大きな切妻屋根が特徴で、その中でもいくつかの建物には棟端に「雀おどり」などと呼ばれる意匠がみられます。信州ならではの特徴的な建物の意匠も是非楽しんでみてください。